BATSUJI BREWINGに「懸ける」
東北・新潟のクラフトビール文化を、『BATSUJI BREWING(バツジ・ブリューイング)』から発信したい―。
仙台市中心部初の醸造所となるBATSUJI BREWINGは、横浜で人気のビール醸造所併設レストラン「REVO BREWING(=以下REVO)」を手掛けるTRIPLE R(東京)がコンサルティングを担っています。
代表の髙橋誠さん(43)はワインソムリエの資格を持つ一方、同社として都内にワインとステーキの店を3店舗構えるなど、味づくりだけでなく飲食を通じたにぎわい創出でも高い実績を誇ります。
仙台の中心拠点である「芭蕉の辻」でのビール作り構想が動き出して1年半。10月8日からはクラフトビールの提供が始まります。クラフトビールに懸ける「夢」、描く未来図を聞きました。
運命を変えたアメリカの「ヘイジー」
クラフトビールとの接点は
もともとは「ワイン屋」なんです。最初に手掛けた店も、ワインとステーキがメイン。ワインに関してはそれなりに自信がありました。
ただ、ビールだけは違いました。ワインはもちろん、日本酒や他のお酒の知識はあるのに、実はビールだけは何ひとつ分かりませんでした。生来の負けず嫌いの性格から2018年、「クラフトビールの聖地」とされるアメリカに飛びました。
現地で飲んだのは、少し濁りのある「ヘイジーIPA」と呼ばれる種類のクラフトビール。飲んだ瞬間、「これだ!」と。今でもあの時の衝撃は忘れられません。ヘイジ―の美味しさを日本でも味わってほしい、自分の手で広めたいとの思いが募りました。帰りの飛行機で醸造所の図面を描くぐらい、心をわしづかみにされましたね。
あの時、アメリカに渡り、あの味に触れていなかったら、クラフトビール事業はやっていなかった。ヘイジーが僕の運命を変えたんです。
冗談交じり「ビール造りましょうよ!」
プロジェクトとのかかわりは
僕は宮城県栗原市の出身。長く仙台に住んでいました。仙台で働いていたころ、「CROSS B PLUS」のプロモーションなどを担当しているBORDER ACT(仙台市)代表の葛西義信さんと仕事をしていた時期がありました。東京に拠点を移した後も葛西さんとはSNSでつながっていました。
2019年の冬、僕のSNSを見た葛西さんが、横浜のREVOを訪ねてきました。その際、「実は仙台の芭蕉の辻で新しいプロジェクトをやるんだけど…」と相談を受けました。土地勘があるので、「芭蕉の辻」と聞いてピンときました。それで冗談交じりに提案したんです。「ビール造りましょうよ」って。
ビルオーナーの心意気に誓い「絶対に成功させる」
実現までの流れは
何度も仙台に足を運び、実際に醸造所を作れるかどうか、許認可のことも含めて調べました。そもそも仙台市中心部には醸造所の前例がなかったので、行政も戸惑い気味でした。でも一貫して、「できるな」という手応えはありました。
最終的にはビルオーナーの仙台ビルディングに承諾をもらえたので、実現に向けて動き出しました。ただ、課題がありました。一つは、当初の電力量では醸造所の機材を動かせなかったこと。二つは吸排気。建設中のビルの壁に穴を空ける必要がありました。
二つの難題をクリアできたのは、ひとえにオーナーの理解と共感です。芭蕉の辻という由緒ある場所で新しいものをつくるチャレンジに、すごく共感してくれて応援してくれた。結果的に電力設備は屋上に追加。ビルの壁に穴をあけることも許可してくれました。常識的には難しいことなのに、ここまでやってくれたんです。だから、心に誓いました。「絶対に成功させる。最後までやり遂げる」と。
出来立てのクラフトビールを味わえる
「BATSUJI BREWING」の強みは
醸造所併設レストランの強みは、ビールも料理も出来立てをそのまま提供できることです。同時に、お客さんとコミュニケーションを取りながら、反応を直接確かめられることです。おいしさをダイレクトに。反応をリアルに。大切なものを損なうことなく届け合えるのは、一番の強みです。
BATSUJI BREWINGの構造が、まさにそうなっています。醸造樽からビールサーバーには、管がダイレクトにつながっており、おいしさを逃がすことなくサーブできる。これが仙台では初めてのスタイルです。
さらに東北では馴染みの薄い「ヘイジ―IPA」が味わえるというのも強みです。ヘイジーは、ホップをふんだんに使用しており、香りが高くて、まるでジュースのような味わいです。こうしたビールを楽しむ文化が東北にはありませんでしたから、皆さんにどれだけ喜んでもらえるか今から楽しみです。BATSUJI BREWINGでクラフトビールを造り、CROSS B PLUSで出来立てを出す。市販とは比べ物にならない美味しさを保証します。
美味しさをさらに際立出せてくれるのが、醸造所の中が「見える」という特長です。衛生上、中には入れませんが、大きなガラス越しに、醸造の施設も作業の光景も間近に見えます。アメリカのブルワリーは囲いがない上に内部は外からも見えて、とても開放的。自由な雰囲気にあふれています。これが飲み手にとっては親しみや安心感につながるのだと体感しました。
BATSUJI BREWINGも、そのスタイルを取り入れました。たくさんの人に見てもらい、親しんでもらい、味わってもらいたい。それは当然、ブリュワー(ビール職人)の気合にもつながるのです。
東北・新潟の魅力 クラフトビールで表現
「BATSUJI BREWING」が目指す姿は
コンセプトは「東北・新潟のクラフト」。東北・新潟の食材を原料にしたビールを構想しています。10月8日からは、宮城の枝豆をふんだんに使った「ずんだヘイジーIPA」を提供します。ブリュワーの畠山崇裕さんを中心に、製造過程の中で、「香りがつくか」など相当な試行錯誤がありましたね。
そして仙台のど真ん中でビールを作るからには、東北・新潟のブルワリーともコラボしてみたい。東北・新潟にある地元密着型の醸造所同士をつなぐハブになれればと思います。コラボから生まれたビールは、全国はもちろん、コロナ禍が落ち着いたら海外にも出せるようになれば面白いなと思っています。
ここで作業をしていると、BATSUJI BREWINGへの期待値の高さが多方面から伝わってくるのでプレッシャーはあります。だからこそ、「東北・新潟の魅力をクラフトビールで表現する」。ビール屋がやるべきことは、これに尽きます。
※河北新報オンラインニュースでも「BATSUJI BREWING」の記事と動画を掲載しています。
10月8日から「CROSS B PLUS」で販売スタート。